【小説】元科学者と機械少女(本編再録)

#白銀の狙撃手 小説 #元科学者と機械少女
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3XXX年。日本。
第三次世界対戦が勃発したこの世界では、約200年もの間戦争が続いていた。
俺は今宮祐司(イマミヤユウジ)。"元"天才科学者だ。
今は何をしているのかと言うと人口50人程度の島で近隣住民と頑張りながら毎年生きていける位の米を作っていた。勿論島の人間だけでの毎年だが。
朝、うるさい時計のアラーム音で目が覚めた。
アラームを止めて、部屋のカーテンを開く。今日も朝日が気持ちいい。
日本本土は今も戦闘中だろうが、戦争に絶対介入しないのを条件に海外にはこの島に手を出さないようにする条約を取り付けていたから、この島は至って平和である。
一家に一台発電機が置いてあるし、海上に開拓した土地にて、風力発電も行っている。
町には新聞屋さんもあるし、天気を観測する機械も山の上に置いてある。
ラジオしかないのが寂しいが、住民たちと将棋や囲碁、年の近い人間たちと俺の持ってる遊○王とかデ○エマをたまにするだけでも十分生きていけるのだ。
朝、第一に玄関から外に出て新聞を取ろうとしたら、
「Zzzz.........」
「は?」
玄関前に地面に寝そべって気持ちよさそうに眠っている少女がいた。
硬いコンクリートの上でよく眠れた物だと思った。


※ ※ ※ ※ ※


「で、お前は誰だよ」
俺はボーカロイドのIAとそっくりな姿を持つ少女に問いかける。
「まずご飯食べたい」
質問に要求で返す図太い神経の持ち主なのはわかった。
とりあえず少女を家に引っ張りあげようとしたら、
「...ん?...マスター?」
「はぁ?」
この少女は俺をマスターとか言い出した。
して、ずかずかと少女が家に上がって来て、今に至る。
とりあえず仕方ないから適当に野菜と卵を使って料理を作る。
この島は敷地の面積に比べて人口が少ない。
そのため重労働にはなるが色々野菜や調味料など沢山作られている。
して、少女にそれを白飯とともに差し出すと、がつがつ食い始めた。
「んで、質問に答えて貰おうか?」
「私が誰かって話?」
「そうだよ...こっちは保護してやろうと思って家に運んでやろうと思ったらめちゃくちゃ図太い神経で飯要求されて少し苛立ってるんだ。答えろ」
「私はIA。IA・SEIMUS(イア・シェイムズ)。」
「マジかよ」
背筋が凍った。この少女に思い当たる節がひとつだけ存在した。
human.jenosaid.wepons.type.humanoid.
ヒューマンジェノサイドウェポンズタイプヒューマノイド
人間殲滅人形兵器。略称HJWTH(ハジェス)
No.00。IA・SEIMUS。この少女はプロトタイプの人形殺戮兵器と同じ名前、容姿なのだ。
戦争を終わらせる鍵となる兵器HJWTH。そのプロトタイプが何故俺の家の前にいた。
「てかお前...自我あるの?」
「あるでしょ。私は"そういうタイプ"なんだから」
はい。今の発言で確定した。
こいつは間違いなくHJWTHだ。資料にはプロトタイプには自立思考と感情、自我を組み込んだと書いてあったのを思い出す。
勿論、俺が科学者として生きていた時の話だが。
「それに日本語まで行けるのか?」
「まぁ全ヶ国語話せるよ?」
すげぇなと思う。マジで。
IAは飯を平らげると俺にすり寄ってきて
「ねぇ~マスタ~遊ぼーよぉ~つまんないよぉ~」
といってきた。
「これから仕事だからダメだ。ついてくるのはいいけどな」
まぁ俺は軽くあしらって仕事の準備をする。
この先に起こる事など、今は一切気づかずに。





俺は仕事場の田んぼに来ていた。
勿論。IAも一緒に。
「ねぇ。なにするの?」
「田植えだよ」
4月某日。田植えの時期。
この頃になると島の住人全員でめちゃくちゃ広大な面積に田植えをする。
50人生きていくのにはだいたい10ヘクタール(10万平方メートル)分程度米を作らなければ行けないが、50人も入れば案外どうにかなるものだ。
それが終わったら魚の養殖や野菜の畑の水やりを行う。
最近はビニールハウスにて南国の食べ物を収穫したりする術も出来ているから、食べ物には困らなかった。人手がないぶん重労働にはなることを除いては。
して、数時間後。
「づがれだぁ~...」
「弱音を吐いくならついてくるな」
「びまだがらやだぁ~...」
「なら飯食って次いくぞ」
俺はIAにおにぎりを2つ渡した。IAはそれをばくばく食べている
「お前は本当によく食べるな...」
「動力源が食べ物だからさ...」
納得だった。
プロトタイプは炭水化物のエネルギーを吸収、動力に変換しているらしい。
人間らしさを与えるためにそうなったらしいが...ぶっちゃけるとエネルギーの生産効率は言い分けではない。
まぁ、普通の人間とおなじくらい食べていれば普通に活動できるから別にいいと思うが
「美味しかった...」
「じゃあ次いくぞ」
「はやいぃ....」
俺はIAを引っ張りながら次の職場に向かった。


※ ※ ※ ※ ※


家にて。
IAが眠った頃、俺は部屋で一人ため息をついていた。
冷めてきている淹れたコーヒーを口にして、俺は思考を回す。
そもそも、なぜIAが俺の家の前にいた?
IAは現在は地下の奥深くにて永眠しているはずだ。
それに、俺の家というのが引っ掛かる。
確かに、俺は元科学者の知識でIAについては大体把握している。
それにこの島は争いもなくいたって平和。
俺は口元を手で押さえつつ、考えた。
...IAは逃がされた?
争いのない。この島に。
IAを知っている、俺の元に?
何故?
考えているとチャイムがなる。こんな時間に人が来るのは珍しい。
「はーい...。」
俺は家の扉を開けると、黒いスーツの人間が三人。
三人とも銃を持っていた。
「来てもらおうか?」
ついていかないと死ぬ。
肌で感じ取れた。
「...わかった」
俺はその三人についていった。





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「がっ...」
俺は人気のない砂浜で、地面に突き飛ばされる。
回りに車が通る様子などなく、聞こえるのは黒服の足音と波の音だけ。
男は俺に拳銃を突きつけて言った。
「プロトタイプを出せ」
「なんの話だよッ...」
俺は可能性にかけてしらばっくれた。
だがそんな抵抗も虚しく
「この島にプロトタイプが存在していて、お前が匿っていると言うのは知っているんだ。嘘はつかない方がいい」
内心、ガチで不味いと思った
この様子...黒服...情報収集速度...
...アメリカ極秘暗殺部隊。EXSM(イグザム)。
少人数精鋭部隊の約十人程度の極秘グループで、暗殺の数は数えきれないほど。
この危機的状況を脱するためにどうしたらいいかを考える。
だがそんな暇も与えず黒服は告げた。
「まぁ、言わないのであればこの島も戦争に巻き込むまでだ」
「なっ!?ふざけるな!この島は戦争に一切介入しないから、外部からも戦争に巻き込むのはやめてくれという条約を結んだはずじゃ...」
男は俺の胸ぐらをつかんで言う
「プロトタイプは軍事兵器だ!それを所持しているだけで戦争に介入しているような物なんだ!」
声を荒げて男は告げる
「それに貴様をマスター"と認識しているからこちらの命令を奴は一切聞かなくなってしまったんだ!本当なら今すぐにでも殺したいくらいだが...」
男は胸ぐらから手を離した。反動で俺は地面に倒れる。
拳銃を突きつけて、男は言った。

「貴様、人類進化促進兵器La+(ラプラス)を持っているだろ。どこにある」

はっとした。逆に冷静に戻った。
何故男はLa+を知っている。アメリカにある俺の地下研究施設は爆破してデータも何も残さなかったはずだ。
「...貴様らに渡すつもりはない」
「そうか。まぁ探せば見つかるだろうし、死ね」
そう言って、男は引き金を引いた。


※ ※ ※ ※ ※


瞬間、ガキィンと鉄が弾かれるおとがした。
目の前にはIAがいて、右腕はメカメカしいブレードになっている。
「マスター?大丈夫?」
と、彼女はこちらを向いた。左目は何かメカメカしく光った眼帯のような物がついていた。
「大丈夫...」
俺がそう答えると、
「じゃ、こいつらやっちゃうね」
と言って男たちに向かって歩き出す。
「見かけ倒しだ。距離を取って銃で応戦しろ」
男の一人が言うと、三人全員散開して離れ、IAに銃を向ける。
だがそこにはIAは居らず、次に聞こえたのは男の悲鳴。
IAは既に一人の男の後ろに回ってブレードを突き刺していた。
二人の男のが同時に銃を乱射。IAは涼しい顔して避けると、
「私も銃使えるよ~♪」
と言って左腕を滑空砲に変化させると、ドンドンと2連射。
二人の男は腹に風穴を開けてぶっ倒れた。
「さっ...お掃除お掃除...」
そう言ってIAは死体を海の沖より奥に流し込んだ。帰ってくることは二度とないだろう。
だが、初めてわかった。
通常のHJWTHはあんな武装変化は出来ない。そもそも人間に限りなく近くしたため武装も最小限の変化に押さえられている。
変化すると言えば、アイ○ンマンのリパルサーキャノンを右手に生成したり、片手を短剣に変えたりとかだ。
だが彼女は腕をブレードや滑空砲に、その上弾丸まで涼しく避けていた。
俺は思い知らされたのだ。
...HJWTHプロトタイプの強さってものが。
「マスター。帰ろー?」
「あぁ...」
目の前で人が死ぬのは何度も見たが、ここまで悲惨な光景は戦争で虐殺されるのを見たとき以来だ。
俺は、この事実に腰を抜かしながら、なんとか立ち上がり家に向かった。





ザザッ...ザザッ.........ザーザー...
ザザッ...プロトタイプ捕獲優先度を...に変更
今宮裕司のザザッ...は...に変更。
La+回収の方法は問わない。全力で務めよ。
尚、今回の任務にはザーザー...の使用を許可する。
以上。


※ ※ ※ ※ ※


あれから、数日が立った。
びっくりするくらい何も起こらなかった。
まあ、おかげで落ち着いて仕事が出来た。田植えも終わったし。
昼間から涼しい海辺の砂浜にて、俺が休んでると、
「マスター♪」
そういってIAが隣に座った。
「平和だね...」
「だな...」
「数日前の襲撃が嘘みたいに...」
「嘘だったと思いたい...」
そんな中身のない会話をする。IAはまた何かを食べていた。
この平和が、ずっと続けばいい。
そんなエゴで俺たちはこの島を作った。
本土では今も人が死んでる。それでも俺たちは楽しく過ごせればそれでいい?
いいわけないだろう。
...そろそろ、潮時なのかもな。
La+を隠し通すのも難しくなってきた。
なら俺はこのまま...世界を救うために、今度こそ、
La+を_____
そう思っていると、近くから爆音がした。
爆破音。明らかに自然ではない。
「...!」
「IA!」
IAはいち早く現場に向かっていった。
マスターである俺を無視して。


※ ※ ※ ※ ※


何が起こったの?
わからなかった。私は壁を伝って急いで爆音のした方に向かう。
その先は漁港。見慣れない一隻の船と黒い服の男が5人。
後ろには...大量の「人」がいた
同じだからこそ分かる、あれはHJWTHだ。
「...今度こそ、本気を出してきたってわけ?」
「まぁ...そんな感じだな」
男の一人がそういった。
「...まぁ、いっか。全員殺っちゃえば」
そう言って私は左目を眼帯のような機械に変換する
次に背中から八本の触手のようなブレードを。
両腕を滑空砲に変化させた。
キルシステム。モードジェノサイド。
圧倒的な力で敵を殲滅する為だけのモード。
「さ。始めようよ」
「...」
男の一人が私に指をさした。
すると大量のHJWHTが私に襲い掛かってくる。
だがどれも兵装は軽いものばかり。私の敵じゃない。
集団で襲ってくるHJWTHを、私は滑空砲やブレードで倒していった。


※ ※ ※ ※ ※


さすがに疲れた。エネルギーの消費も激しい。
全てのHJWTHを殺した頃、私は懐に忍ばせていてぺちゃんこになったおにぎりを食べていた。
「これで終わり?」
流石にあっけないなと思った。だが、
「終わりだと思うか?」
奴らは全員でいろんな武器を出してきた。
ミニガン、対戦車ライフル。二丁のアサルト。ロケットランチャー。大剣。
そう、あれは私の体力を削るブラフ。
本命は男たち自身だった。
私がなぜ断言で来たかというと、奴らはサイボーグだったのだ。
生命反応は人間しているのに、身体は機械とか気持ち悪すぎる。私も同じなのだが。
身体が動くか確かめる。
「...まだいけるなぁ」
私はそう呟いた
「おいおい、降参しないのか?」
「守りたい人がいるからさ」
「...」
男たちは顔を見合わせ、
「...やっぱり、お前破壊していくわ」
そう言って襲い掛かってきた。


※ ※ ※ ※ ※


流石に勝てなかった。
相手は熟練の暗殺者。条件が対等になれば勝てるはずもない。
私は民家の壁に吹き飛ばされ、その場にへたり込んだ。
「おいおい。さっきまでの勢いはどうした?」
男の一人が言う。もう見上げることすらもできない。
身体中痛くないはずなのに痛い。なんでだろう。
でも初めて分かった。これが「痛み」なんだね。
「...さて、捕獲できるな」
そう言って男の一人は私を持ち上げる。
「戻ったら思考回路のリセットをしないとな」
ああ、思考をリセットされるという事は、記憶も消える。
マスターとの思いでも、全部消える。
短い間だった。でも楽しかった。
戦いしか見てこなかった私にとって、平和はかけがえのないものだった。
「...マス...タぁ...」
私は最後にそう呟く
「ごめん...ね...」
瞬間、爆音がした。
土煙の漂う中には一人の人影、
煙が晴れるとそこには、
人であるが人でない、マスターがいた。
「マスタぁ...」
よく見ると男の一人を踏みつけにして頭部を破壊している。
マスターは、人ではなくなっている、
だが同時に、人でもある
「まさか...お前」
男の一人がそういった。
「La+を使ったのか...?」
「ああ使った。そして生き残った」
マスターは告げる
「俺は...人より一段階進化した。今の俺は今宮裕司でありLa+だ」





博打だった。
La+は体に適応しなければその人間は死ぬ上、La+も消滅する。
この判断をしたのはこれが最善策だと思ったからだ。
大量のHJWTH。それと戦うIA。
IAを守るためにはこれを使うしかないとにらんだ。
俺は直ぐに家に戻り床下の倉庫に行く。
俺はある金庫を開けて、ある宝石を取り出した。
それは宇宙のような光がこもっており、
砕けば、直ぐに粉々になるような物質。
人類進化促進兵器La+(ラプラス)
この宝石がそれだった。
心臓が高鳴る。
息が荒くなる。
適合できなかったら?死んでしまったら?
いや、今は悪い事は考えるな。
IAも、この島も。全部守るためだろう?
そう思い、俺は宝石を手で握りつぶし、粉々に砕いた。


※ ※ ※ ※ ※


「貴様ッ...!」
男の一人は苦痛の表情を見せた。
俺は先ほど殺した黒服の持っていた大剣を手に取る。
「...さて、全部終わらすか」
一人がロケットランチャーをぶっぱなしてきた。
俺はそれに"虹色の波動"を当てると、爆破するわけでもなく粒子レベルに分解された。
そのコンマ数秒後。俺はロケラン男の首を両断する。
一人がライフルを、もう一人がアサルトを打ってくるも、
俺には当たらず両者首を両断。
「...ばッ...化け物がッ...!」
男の一人はそう言い腰を抜かして地面にへたれこんだ。
「化け物だよ。俺は」
そう言って俺は男の頭を粉砕した。
...疲れた。
そう思いため息をつく。
俺の髪の毛は白く、炎のように揺らめいていた。
「マスター!」
IAが駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「ああ。大丈夫」
そう言って俺は笑って見せると、IAは安心したような顔を浮かべた。
「よかったぁ...マスター...生きててよかった...」
そう言って俺の胸に抱きついてきた。
「...ああ。」
相槌を打ってIAの頭を撫でる。
「...でも、もういかなきゃ」
そう...次の段階(ネクストステージ)に進化した俺にはやることがある。
...戦争を、終わらせる。
この力で。
俺はIAから離れて中に浮く。
「...マスター?まってよマスター!」
IAはそう叫んだ。

「私まだマスターと一緒にいたいよ!まだ...まだッ...!」
少し言葉が詰まるけど、私はそれでも言葉を綴る。
「私まだマスターに好きって言えてないよ!」
私はそう叫んだ。マスターはきょとんとしている
「今までの私のマスターは嫌な人ばっかりだった!でもマスターは違う!優しくて...暖かくて...私に毎日ご飯をくれた!構ってくれた!」
マスターはの表情は、なんとも言えない表情だった。
「だから...行かないでよ!離れないでよ!私にはマスターしか居ないの!」
涙ながらに、私は叫んだ。それに対してマスターは。
「大丈夫!やること終わったら絶対に帰ってくるよ!」
そう言って笑った。
「IA!俺からの命令だよ!」
「...え?」
私は目に涙を貯めながら、言葉を待つ。
マスターは、言った。
「心に従え!自分の生きたいように!やりたいように生きろ!勿論!万が一の時以外人は傷つけちゃダメだけどね!」
そう言って、マスターはさらに高く中に舞う。
もう、お別れだと悟った。
でも、
「わかった!」
泣き笑いしながら、私は答えた。
安心したようにマスターは笑うと、空の彼方へ飛んでいった。
まるでその姿は、世界を駆け巡る鳥のようにも見えた。
待つよ、マスター。私は。
あなたが、戻ってくると約束してくれたから。





あれから、一年がたった。
私は今でも、島の人たちに助けられて生きている。
...あれから次の日、世界からありとあらゆる兵器が消えた。
ナイフはともかく、銃、戦車、爆撃機械...etcと、
全ての兵器が消えた。
私はなぜ消えなかっのか疑問に思うが、マスターが上手いことしてくれたのだろう。
そして。これを気に昔のような協力関係を取り戻そうと平和条約が結ばれ、200年の戦争は終わりを迎えた
世界には、平和が戻った。
...けれど、
マスターが、帰ってくることはなかった。


※ ※ ※ ※ ※


いつも通り仕事を終えた私は家に帰る。
「ただいまー」
マスターの居ないマスターの家は酷く静かで、私の声が反響するのがやけに寂しく感じた。
いつものように夕飯の支度をして、何時ものように手を合わせる。
「いただきます」
マスターが教えてくれた秘伝の生姜野菜炒めのレシピ。何回食べてもあきない味。
今日働いた分の体力を取り戻すように、私はご飯を食べた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて、そういった。
ラジオをつけて、洗い物を始める。
いつもはマスターがやってくれていたことだ。最近は慣れたが最初はとても酷かった。深夜にお隣さんに訪問したのは今でも鮮明に覚えている。
洗い物を終えた私は庭に向かった。
マスターが作ったベンチに座り、星を眺める。
春の夜は肌寒く、少し長いものを着たほうがよかったなと今ごろ後悔した。
だが、そんな思考も美しい夜の星空に埋まっていく。
私はいつもこうして星をみていた。
マスターがいつ帰ってきても、直ぐに気づけるように。
何故だろう、少し眠くなってきた。
ここで寝てしまったら風邪を引いてしまう。私は機械だからそんなことは無いが。
感覚が人間と同じものを擬似的に再現されているため、そう思うこともしばしばあるのだ。
遅い来る眠気に私は耐えきれず眠った。


※ ※ ※ ※ ※


「...?......よ!IA!」
うるさい。声が聞こえる。
まだ空は暗い。夜じゃないか。いったい誰が起こしたと言うのだ。
そう思い私は前を向く。
そこには見慣れた顔があった
「マスター...?」
「うん。帰ってきたよ」
そう、マスターが帰ってきたのだ。
いつもの日常と至って変わらない姿で、私に微笑んでマスターは言った。
「マス...タァ...帰ってこないと思ったぁ...」
私はすすり泣きしながらマスターに抱きついた。
今までの寂しさを埋めるために。
「うんうん。ごめんごめん。世界を一週しながら難民助けてたら一年かかっちゃった」
マスターは微笑みながらそういう。
「でも帰ってきてよかったぁ...」
そう私は言うとマスターは嬉しそうに笑った。
「...てことで、IA。ただいま」
「...!」
マスターの一言に、私は声がつまる。
やっとの思いで、私は口にした。
「...おかえりなさい!大好きな私のマスター!」
自分の作れるとびっきりの笑顔で、私はそう答えた。
空には、一筋の流れ星が見えた気もした。

sirogane0730


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めちゃくちゃいいお話、、、、
涙がうるうるした、、、、


チキン南蛮
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